INAXレポート2月号
ロンドンのパブリックスペース
テムズ川に面して建つロイヤルフェステイバルホール(London County Council 設計・1951年完成・1963年増築)のホワイエには興味深いスペースをみることができる。3000席のホールが巨大なボリュームとして持ち上げられた下部と周囲に連続するホワイエには、思慮深くデザインされたテラスやステップが差し込まれている。この一体のスペースの中にギャラリーやカフェ、ショップが切り取られ、多くの人々が行き交う様子にはロンドンの上質のパブリックスペースの典型をみることができるだろう。上階のホワイエと連続するテラスからみるテムズ川の夜景はもう一つの楽しみであり、遅くまでコンサートの余韻を楽しむ人々でにぎわう。
しかしながら、このすばらしい施設をはじめ、国立劇場、クイーンエリザベスホールなど、英国を代表する近代建築の名作が混在するサウスバンク地域も、一方では施設相互を連結する歩行者用デッキやウォータールー駅周辺の整備の遅れから犯罪多発地区に指定されるような問題を抱えてきた。こうした中で1994年の指名コンペで当選したリチャード・ロジャースによって、現在周辺の再開発計画が進められており、大きくうねる屋根が個々の施設を保存しながら全体を一体化していくというアイデアによって、次世紀に向けて新たなパブリックスペースを提供してくれることが望まれている。また、ニコラス・グリムショウによるウォータールー駅の不整形に切り取られた敷地に滑らかに流し込まれた架構の描く曲線には、建築家に期待されるものがスタイリッシュな建築物から、既存のスペースを連結しその隙間に流し込む都市的なアイデアへと、ようやく移行してきたことを感じる。
名園ハムステッドヒースには、刈り込まれた庭園やフォリーもなく、緩やかな起伏の上にありふれた池や丘が連続する。人が歩くことで草原に道ができ、腰を下ろすことで樹木はあずまやとなる。回遊式庭園のように指定された経路があるわけではなく、傾斜の緩急によってさりげなく目的的な場所が切り取られていく。一見無造作な風景の中に、都市生活者の休日のさまざまなアクティビティが繰り広げられ、交錯する様は、とても現代的な光景にみえる。人間の生活をいかに単純明快に表現するかをテーマとした近代に対して、複雑なありのままの状態を、いかに正確に描写し、混合するか。都市生活での現実的なアクティビティを思い起こしてみれば、どれも取るに足りないものばかりだが、人々の生活が単純なアクティビティの複雑な絡み合いだとすれば、建築物相互の新しい関係性をデザインすることに、建築のテーマも移行することになろう。 )