東京UAEセンター 

 子宮筋腫に対するUAEに関する文献等によると44歳以下の場合は卵巣機能にほとんど影響はないが、45歳以上の場合は10%程度がそのまま閉経になるか、もしくは閉経が早まると報告されている。一方、子宮腺筋症を対象としたUAE後の卵巣機能に関する報告は少ない。2003−2009年に施行した子宮腺筋症74例に関して解析した。使用した塞栓物質はゼラチンスポンジをポンピング法で作成したものである。ポンピング法によりゼラチンスポンジは破砕され平均400μmの大きさになるが、ばらつきがあり小さなものでは200μ以下、大きなものでは1500μのものも混在する。

したがって次の問題点が指摘されうる

【1】 200μm以下の小さな粒子が子宮動脈-卵巣動脈吻合を介して卵巣に注入され、より卵巣機能低下が起きるのではないか

【2】 200μm以下の小さな粒子が混在することによりより末梢領域の虚血をきたし(たとえば螺旋動脈に塞栓物質が流入する)子宮内膜の萎縮がより起きるのではないか

【3】 同様に子宮筋層の虚血が強くなり筋層そのものが壊死におちいるのではないか

2003−2009年に施行した子宮腺筋症74例に関して解析した。対象となった症例は子宮腺筋症で原則挙児希望がなく平均年齢42.9歳である。

                            UAE後の無月経

No

UAE施行時年齢

無月経年齢

無月経をきたすまでの期間

 

 

1

54歳8ヶ月

54歳9ヶ月

1ヶ月

閉経

 

2

47歳3ヶ月

50歳9ヶ月

3年6ヶ月

閉経

 

3

46歳4ヶ月

49歳7ヶ月

3年3ヶ月

閉経

 

4

49歳0ヶ月

52歳0ヶ月

3年0ヶ月

閉経

 

5

48歳3ヶ月

49歳7ヶ月

1年4ヶ月

閉経

 

6

47歳8ヶ月

47歳9ヶ月

1ヶ月

閉経

 

7

47歳9ヶ月

50歳7ヶ月

2年10ヶ月

閉経

 

8

47歳8ヶ月

47歳9ヶ月

1ヶ月

閉経

 

9

49歳9ヶ月

50歳0ヶ月

3ヶ月

閉経

 

10

46歳1ヶ月

47歳9ヶ月

1年8ヶ月

一過性で月経再開

 

11

41歳3ヶ月

42歳3ヶ月

1年0ヶ月

一過性で月経再開

 

12

45歳0ヶ月

45歳5ヶ月

5ヶ月

子宮性無月経

   

UAE後に無月経をきたした症例は12例であった。このうち明らかに閉経となったものは9例でいずれもUAE施行時は46歳以上である。No10およびNo11は月経がこない月が一度あったのみでその後月経は再開している。No12はFSHの上昇はなく子宮性無月経(おそらく内膜の癒着)と診断した。  したがってUAE後の閉経は9症例ということになる。

                              UAE後の閉経   

No

UAE施行時年齢

閉経年齢

閉経になるまでの期間

1

54歳8ヶ月

54歳9ヶ月

1ヶ月

2

47歳3ヶ月

50歳9ヶ月

3年6ヶ月

3

46歳4ヶ月

49歳7ヶ月

3年3ヶ月

4

49歳0ヶ月

52歳0ヶ月

3年0ヶ月

5

48歳3ヶ月

49歳7ヶ月

1年4ヶ月

6

47歳8ヶ月

47歳9ヶ月

1ヶ月

7

47歳9ヶ月

50歳7ヶ月

2年10ヶ月

8

47歳8ヶ月

47歳9ヶ月

1ヶ月

9

49歳9ヶ月

50歳0ヶ月

3ヶ月

平均

48歳8ヶ月

50歳4ヶ月

1年8ヶ月

上の表から、UAE後に閉経となったのは46歳以上でUAE施行時平均年齢48歳8ヶ月である。閉経の平均年齢は50歳4ヶ月と日本人の平均閉経年齢である。UAE後の早期閉経をUAE1年以内に閉経となったものと仮定すると、No1,No6,No8,No9の4例が相当する。 今回74例のうち45歳以上は38例であったので、この1年以内の閉経を早期に閉経したとすると 4/38=10.5%となり従来の報告と遜色ない。また50歳未満の閉経を早期閉経と定義しても4例であり頻度は同じ4/38=10.5%となった。むしろ閉経の平均年齢が50歳4ヶ月ということからほとんど卵巣機能に影響していないのではないかと言えるくらいである。

尚、子宮性無月経(おそらく内膜癒着:Asherman症候群)は1/74=1.4%ということになる。

次に45歳未満の卵巣機能を検討した。  

                       

上のグラフは45歳未満の症例のFSHの推移である。卵巣機能の低下によりFSHは上昇する。これからわかることは45歳未満の場合に1症例のみUAE3ヵ月後にFSHが50mIU/mlに上昇し半年後には10mIU/ml に戻っていると言うことである。もう1例は2年後に50mIU/mlに上昇したものの3年後には戻っていることである。また45歳未満ではUAE施行時41歳の1例だけがUAE後1年で一過性の無月経(早い話が1回月経が飛んだということ)が認められたのみである。ちなみにUAE後1年以内にFSHの一過性上昇を認めた症例はUAE施行時44歳であり、2年後に一過性上昇を認めた症例もUAE施行時44歳であった。 

以上のことから 【1】の 200μm以下の小さな粒子が子宮動脈-卵巣動脈吻合を介して卵巣に注入され、より卵巣機能低下が起きるのではないか は証明できなかった。

次に 【2】 200μm以下の小さな粒子が混在することによりより末梢領域の虚血をきたし(たとえば螺旋動脈に塞栓物質が流入する)子宮内膜の萎縮がより起きるのではないか   

であるが原則挙児希望者は対象としておらず、UAE後に月経周期を考慮して子宮内膜の厚さを計測していないのでなんともいえないが、子宮内膜癒着が1例のみで1/74=1.4%は決して高い数値ではない。 将来、経膣超音波等による解析で子宮内膜の状態が解析され、(たとえば、UAE後2−3ヶ月は薄い状態であるが6ヶ月以降は正常の厚さに戻るなど)ることにより挙児希望者へのUAE適応が拡大される可能性もある。 さらに塞栓物質の大部分が200μm以下なのでなく、総量の25%程度ということであり、さらにそれより大きなものも同時に注入されるわけであるから200μmの粒子はより中枢側にも存在しているので200μm以下の粒子が含まれるからより内膜損傷が起きるという理由にはならない。

次に【3】 子宮筋層の虚血が強くなり筋層そのものが壊死におちいるのではないか  に関しては、子宮筋腫に対するUAEを含めて延べ1700症例以上経験している(ほとんどがポンピング法によるゼラチンスポンジを使用)が、正常子宮筋層に梗塞巣を認めた経験はない。また腺筋症の場合は意識的に塞栓を強くしているが、塞栓後の疼痛が腺筋症の場合に特に強いという印象は持っていない。以上のことから、原則挙児希望のない子宮腺筋症に対してポンピング法-ゼラチンスポンジによるUAEは有効な治療の選択肢の一つとなりえると考えられる。

              
巣動脈塞栓をした場合の卵巣機能

次に卵巣動脈付加塞栓を行った場合の卵巣機能を検討したのでデータを示す。子宮動脈塞栓後に卵巣動脈の付加塞栓を行ったのは15症例。対象疾患は子宮筋腫14例、子宮腺筋症1例。

No

UAE施行時年齢

UAE前の治療など

透視時間(分)

塞栓した子宮動脈

塞栓した卵巣動脈

1

42

 

15.9

2

42

帝王切開

14.4

両側

3

40

UAE

10.1

4

46

 

10.6

両側

5

48

GnRHa

30.6

6

45

UAE

18.9

両側+右副子宮動脈

7

46

GnRHa

23.4

両側

8

47

 

6.1

両側

9

43

帝王切開

22.7

10

40

GnRHa

19.7

11

44

GnRHa

16.8

両側

12

39

UAE

14.9

13

49

帝王切開

8.4

両側

14

40

GnRHa

16.8

両側

15

41

UAE

11.4

平均

43.5

 

16.0

 

 

       

 上のグラフがFSHの推移である。1例のみ30ヶ月後に50IU/mlに上昇したものの36ヵ月後には10以下に低下している。卵巣動脈塞栓を施行する場合は細心の注意を払って塞栓物質を注入するのでそのせいもあるかもしれないが、卵巣動脈付加塞栓が、有意に卵巣機能低下につながるとは考えにくい。欠点としては透視時間が延長することである。通常私は8分程度の透視でUAEを終えるのであるが、卵巣動脈付加塞栓の場合は16分に延長する。米国ジョージタウン大学の発表では通常のUAEに23分程度の透視時間を要しているとのことだから、卵巣動脈付加塞栓をしても平均16分なら問題ないと考える。